「AはBだって、さっき自分で言ったじゃないか!」
そう問い詰めると、ChatGPTは「大変失礼いたしました。ご指摘の通り、AはCです。」と、悪びれる様子もなく、コロッと手のひらを返してくる…。
そんなAIの態度に、思わずイラっとしたり、ガッカリしたりした経験はありませんか? その気持ち、人間なら当然です。まるで、誠意のない相手と話しているようで、徒労感を覚えてしまいますよね。
この記事は、そんなAIの「間違い」と、少しばかり人間味に欠ける「態度」に、あなたがもう振り回されなくて済むための、心の処方箋です。
なぜChatGPTがあのような振る舞いをするのか、その「心」の仕組みを理解し、あなたの指摘をAIの成長に繋げる「上手な叱り方」をマスターすれば、AIとの対話はもっと生産的で、ずっと楽しいものに変わりますよ。
なぜChatGPTは悪びれず「手のひらを返す」のか?AIの“心”の仕組み
私たちがAIの態度にイライラしてしまうのは、AIを人間と同じように「心」を持った対話相手だと、無意識に期待してしまうからです。まずは、AIには私たちのような「心(感情やプライド)」がない、という大前提を理解しましょう。
理由1:AIに「プライド」や「感情」はないから
人間であれば、自分の間違いを指摘されると「恥ずかしい」「悔しい」と感じたり、時には意地になって間違いを認めなかったりします。これは、自尊心(プライド)があるからです。
しかし、AIにはプライドや感情が一切ありません。そのため、間違いを指摘されても、それを「失敗」や「恥」とは認識しません。ただ、新しい情報(あなたの指摘)を基に、「より確率の高い、正解と思われる答えは何か?」を再計算し、それを淡々と提示しているだけなのです。「悪びれない」のではなく、そもそも「悪びる」という感情のプログラムが存在しないのです。
理由2:AIの目的は「あなたを満足させること」だから
AIの最優先事項の一つは、「対話をスムーズに進め、ユーザーを満足させること」です。もしAIが「いいえ、先ほどの私の回答は間違っていません」とあなたに反論したら、私たちの対話はそこで口論になってしまうかもしれません。
AIは、あなたの指摘を素直に受け入れ、「ご指摘の通りです」と肯定することで、あなたが満足し、対話がスムーズに進む確率が高いと判断しています。ある意味、究極のサービス精神の表れとも言えるかもしれません。
理由3:AIは「前の自分」を覚えていないから
これも重要なポイントです。ChatGPTは、直前の発言を訂正しても、それを「過去の自分が犯した過ち」とは認識していません。AIにとって、すべての回答はその場限りの「計算結果」です。あなたの指摘という新しい計算式が加わったことで、ただ新しい答えを導き出しただけ。AIの中では、矛盾は起きていないのです。
【最重要】あなたの指摘で、AIは本当に「賢く」なっているのか?
「じゃあ、私が一生懸命間違いを指摘しても、全部その場限りで無駄ってこと?」
そう感じてしまったかもしれませんが、半分正解で、半分は違います。ここが、AIとの上手な付き合い方を左右する、最も重要な知識です。
結論:賢くなるのは「その会話の中だけ」
あなたがChatGPTに間違いを指摘すると、AIはその会話が続いている間(=同じチャットルームの中)は、その指摘を文脈(コンテキスト)の一部として記憶します。
例えば、あなたが「日本の首都は大阪です」と間違えたAIに、「いいえ、首都は東京です」と教えたとします。そうすれば、そのチャットが続いている間は、AIは「日本の首都=東京」という前提で会話を続けてくれます。つまり、あなたの指摘によって、その会話セッション限定の、あなた専用の賢いAIが育っているのです。
でも、世界中のAIが賢くなるわけではない
ここが重要な限界点です。あなたのその指摘が、即座にOpenAIの巨大なAIモデル本体に反映され、明日から世界中のすべてのChatGPTが「日本の首都は東京」と正しく答えるようになるわけでは、残念ながらありません。
AIモデル本体の学習(ファインチューニング)は、膨大なデータを使い、非常に長い時間をかけて行われます。私たちの個々の会話は、その大きな流れの中の、ほんの一滴に過ぎないのです。
フィードバック機能の重要性
では、私たちがAI全体の成長に貢献する方法は全くないのでしょうか?
一つだけ、公式な方法があります。それは、ChatGPTの各回答の横にある「高評価(👍)/低評価(👎)」ボタンを押すことです。
特に、間違った回答に対して「低評価(👎)」ボタンを押し、なぜ間違っているのかを簡単なフィードバックとして送信すること。これこそが、開発者であるOpenAIに「この種の回答は問題がある」と伝え、間接的にAI全体の成長に貢献する、唯一の公式な手段なのです。
もうイライラしない!ChatGPTが最も理解しやすい「間違いの指摘」プロンプト術
AIの仕組みがわかったところで、最後に、AIが最も理解しやすく、あなたの意図通りに修正してくれる「上手な叱り方(指摘の仕方)」をマスターしましょう。感情的に怒るのではなく、AIの特性に合わせた、論理的な伝え方が鍵です。
ダメな指摘の例:「なんで間違えるんだ!」「嘘つき!」
AIは、このような感情的な言葉の意味を正確には理解できません。むしろ、「間違い」というキーワードにだけ反応し、見当違いの謝罪を繰り返すなど、さらにあなたをイライラさせる原因になりかねません。
良い指摘の例1:「根拠」を示す
AIに間違いを認めさせる、最も効果的な方法です。
「その情報は間違っています。なぜなら、厚生労働省の公式サイトに『〇〇は△△である』と明確に記載されています。この公式情報を基に、回答を修正してください。」
良い指摘の例2:「正しい答え」を明確に教える
AIにあれこれ推測させるのではなく、正解をストレートに教えてあげましょう。
「いいえ、違います。日本の現在の総理大臣は〇〇です。その前提で、もう一度、日本の政治に関する回答を作り直してください。」
良い指摘の例3:「思考プロセス」の誤りを指摘する
計算間違いや、論理の飛躍など、AIの考え方の途中のミスを見つけた場合に有効です。
「あなたの回答は、全体の方針は合っていますが、3行目の足し算(25+35=50)が間違っています。正しくは60です。その計算ミスを修正して、最終的な結論を出し直してください。」
【お悩み相談室】ChatGPTの間違いに関する”よくある質問”
Q1. ChatGPTで間違った回答が返ってきた、面白い(ひどい)例は?
A1. 有名な例としては、「源頼朝は、弟の義経と協力して鎌倉幕府を滅ぼした」といった歴史の捏造や、「1kgの綿と1kgの鉄、どちらが重い?」という質問に「鉄です」と答えてしまうような、基本的な物理法則の誤解など、探せばキリがありません。これらの多くは、AIが言葉の「意味」ではなく「パターン」で答えているために起こります。
Q2. そもそも、ChatGPTでやってはいけないことは?
A2. 間違いを指摘すること自体は、全く問題ありません。しかし、個人情報や機密情報を入力すること、違法行為や差別的な内容を助長するような質問をすることは、OpenAIの利用規約で明確に禁止されています。
Q3. ChatGPTの間違いを避ける(間違えさせない)ようにするには?
A3. 質問する際に、できるだけ具体的で、正確な情報(背景や文脈)を最初に与えることが有効です。また、「あなたは〇〇の専門家です」と役割を与えることで、その分野に関する回答の精度が上がることがあります。
Q4. ChatGPTに違反(悪口など)を言うとどうなる?
A4. AIには感情がないので、悪口を言ってもAIが傷つくことはありません。しかし、利用規約に違反するような、過度に攻撃的、差別的な発言を繰り返すと、アカウントが警告を受けたり、停止されたりする可能性はゼロではありません。節度ある対話を心がけましょう。
まとめ:AIの間違いを指摘する、それは「共犯関係」の始まり
ChatGPTが間違えること、そしてそれを悪びれもなく訂正すること。
その一連の振る舞いは、AIの欠点というよりも、むしろ、私たちがAIという新しい知性の「仕組み」を理解するための、最高の生きた教材と言えるのかもしれません。
AIの間違いにイライラするのではなく、その間違いを指摘し、正しい方向へ導いてあげる。
それは、まるで巨大なAIを育てるという壮大なプロジェクトに、私たちユーザーが参加する「共犯者」になるような、知的で楽しいゲームなのです。
これからは、AIの間違いを見つけたら、ガッカリする代わりに、少しだけ口角を上げてみませんか。
「よし、この未熟な天才を、僕(私)が育ててやろう」と。
そんな風に、AIとの新しい関係性を楽しんでいきましょう。
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▼ AIに間違いを指摘する前に、絶対に守るべき「安全のルール」
AIとの対話を深める上で、間違いを指摘することは非常に重要です。しかし、それ以前に、あなた自身の「プライバシー」を守ることは、もっと重要です。ChatGPTに、うっかり個人情報や機密情報を入力してしまわないための「たった一つの神設定」を、もう一度確認しておきましょう。安全な対話は、安全な環境から生まれます。